まさおの脳みそ

ぼくの脳みそ

異世界の宝物庫より 下書き

  Grigori's forbidden knowledge編 1 

  Hermontweezers 前半

 

 

 城下町のはずれで、暗い瞳のムゥが話題の中心になる事が多くなってきた。実家より居心地がいいと評判の酒場でも、今日の話題の中心は、なんといってもムゥであった。

 「今まで、何故目に入らなかったのか解らない程に、彼女は艶があり、見かけるたびに、気分が高揚するよ。何でもしてあげたくなっちゃうんだよな。」

 「あの美しさは、認めるしかないよ、あの底が知れない暗い瞳を意識しないなんて、無理だわ」

 そういった女性はこうも続けた。

 「化粧であれほど変わるなんてね。」

 

 

 おい、バン、秘書さんが呼んでたぜ。

そう言いながら、コックのサイさんは、まだ湯気の立っている昼食のスープを持ってきてくれた。香ばしい匂いが辺りを包み、食べてもないのに体が温かくなった気がした。

 「いつも思うけど、この倉庫には、サイさんの作ってくれたご飯こそ、入れるべきだと思いますよ。頂きます。」

 「いつも思ってるけど、俺には、こんな果てのない仕事は無理だなぁ、どういたしまして。」僕の集中力を切らさない様、サイさんはそう言いながらも既に部屋を後にしていた。

 本当であれば、少しづつ飲み込みたい、そんな素晴らしい香りのスープを手早く飲み干し、バンは秘書室へと向かった。

 

 硬そうで、ツヤのある木目調のドアが、部屋の主を容易に連想させる。

重いノックの後に、扉の向こう側から入室許可が出たが、普段より声のトーンが低い事に気付き、軽く動揺しながら部屋に入る。

 秘書さんが、珍しく困った顔をしていた。

普段は、実直でお堅いけど、他人に優しく、そして揺らがない。まさに大黒柱の様な、バリトンボイスの老人である、そのいつも自信に満ち溢れた顔が、やっべ~・・・。と言う表情をしているので、タダ事ではないナニカが起こっていることは想像に難くなかった。

 「来てくれて助かりました。少し困ったことになりました。私は最悪退城になる可能性があります。」

 ほら。

 「秘書さんが辞めさせられるなんて、王を殺したりしない限りはあり得ませんよ。何があったのでしょうか?」

そう言って慰めるが、彼の顔色は元に戻ることはない。

 「実は、ある地域の人間が、労働しない、と言う情報を得まして、それを追っていくと、原因は宝物(ほうもつ)が起こす事象である事が分かったんです。回収することが出来れば王の宝物庫に加えることが出来るので、それは朗報であったのですが、調査を進めていく間に、調査員が突如休暇を取るようになりまして、らちが明かないので、私も調査に赴いたのですが・・。」

 「別に問題そこまで無いじゃないですか、調査員が死んだわけでも無いようだし。」

 そこまで大事なら、さすがの下っ端の僕にも話くらいは入ってくるはずだ。

 「いや、問題なのです。該当の宝物を確認した瞬間、私の心は、彼女に奪われてしまったのです」

 「?」

 「めっちゃかわいいのです。それはもうハチャメチャに。そして、彼女に味方したくなってしまう。他の事はなかなか考えられないのです。」

 「」

 普段の彼は、人間としての理想系の一つであり、ハチャメチャなんて、【なんたらボールZ感】のある言葉は話さない。

 「すぐに人が死ぬ様なモノではないが、このままでは、この地域の人間は骨抜きにされて、危機感もないうちに、支配されてしまう。いや、支配と言うか、彼女に関する事以外の他の事する気が無くなるのです。」

いきなりシリアスにならないでください、温度差ビックリするから。

 「つまり、宝物に協力したい気持ちから、危機的状況に気付きながらも報告義務を怠り、対応するにも今更どうしようもなくなってしまい、王に怒られる。それが怖い。という気持ちが、宝物の彼女の味方をしたい欲求。を一時的に超えたから、ビビッて僕に相談してくれていると言うことですね」

 「君は相変わらず、弱みを見せるとナイフのような言葉で刺してくるね。」

 ここまで大事になっていながら、上に話が通っていない事から、よほど魅了の力が強力である事が想像できる。

 秘書さんも、根がアルミ製の物差しの様に真直ぐであるから、ここまで抵抗できたのだろう。

 「では、恒常の業務から離れ、調査に参ります。宝物の彼女に対する欲求がこれ以上深くなると、秘書さん自身に僕の調査を邪魔されるという未来が容易に想像できるんで、正直何らかの拘束を掛けたいのですが。」

 秘書さんは頷き、慣れた手つきで自分の体を縄で縛り始めた。何故慣れているのか、僕にはわからないが、高揚した顔の、縄で縛られた(自ら縛った)初老のイケメンが、高貴でやたら広い秘書室のど真ん中でたった一人悶えている姿は、10回位人生をやり直さないともう一度お目にかかれない気がした。そしてこれを見たら、確かに王からの信頼は無くなりそうだな、と感じた。

 

  僕の恒常の業務と言うのは、王の倉庫の整理である。倉庫と言っても、全貌がわからない程デカい。王の先祖が作ったそうなのだが、数えきれないほどの宝物が、とても回りきることのできない様な規模の空間に点在している。所謂ただの道具ではないヒミツ道具的なマテリアルである為、何なら倉庫の一部はダンジョンみたいになっていたり、能力が暴走したりしている。あまりに危険な為、以前までは命がけで調査をしていたみたいだ。

 そんな危険な倉庫で、何故僕が働けているかと言うと、前の世界の記憶や経験があるからである。ここの宝物は、以前僕が居た世界で、物語として聞いたことのある道具だったり、昔話で聞いたことのあるトラブルが起こったりしていたが、それらの対処法を知っていた僕を、王様が気に入り雇ってくれたのだ。

この仕事を続ければ、現世への帰り方がわかるかもしれない。そう思って、日々倉庫の整理を続けているのである。

 

 好きの反対は、無関心と言うが、干渉せざるを得ない関係の人間は無関心では居られない。

 両親は、眉目秀麗であった、子供が出来る際も周りの人間から、絶対かわいい子が産まれるって、と言われ続けたそうだ、実際に、他の兄妹の顔は整っている。長女である自分だけが、何の特徴もない顔に生まれてしまった。両親も最初は優しくしてくれていたようだが、友人からの反応が芳しくなく、遅れて可愛らしい兄妹が産まれ、どうしても、自分を愛することは難しくなっていったようだ。気が付くと、家族は、自分と目を合わすことが無くなっていた。

 日頃の鬱憤を晴らすのに、都合がよかったらしく、気が付くと、家族から、暴力を受けることが増えていった。家に居るとよくない事が起きるので、家を空けることが多くなった。笑い顔や、嬉しい時にどんな顔をすればいいのか、すでに忘れてしまっていた。  他人と干渉するのが怖く、面倒であったので、町はずれの空き家で時間を潰すことが多くなった。こんな自分でも、無条件で愛してくれる人が居れば、それだけで満たされるのに、とムゥは思っていた。

 

 

 糞ド変態秘書様を置いて、僕は城下町へ向かった。まずは情報収集だ、うっかりソレを感知してしまうと、普通にズッキュンされる可能性がある為、ソレの確かな目撃情報がまだ出ていない地域の酒場に入った。

 紫煙が目に染みる、でも嫌いじゃない香りと喧騒。人間の温かみを感じるパブに入り、「取りあえず」をオーダーする。

 黄金色の飲み物が注がれている最中、聞き込みをするまでも無く、ソレの情報が聞耳に入ってきた。

 「マジ先輩ちょっと聞いてくださいよ!空前絶後っすよ!!!ホントハンパネェ位ゲキマブで激アツな女の子見つけたんスよ!大勝利っすよ!マジ射精卍!!・・・。」

 やばい、聞き込みしてないのに、(辺りを気にしない無神経な声が)勝手に聞こえてきた段階で、いやな予感はしてたけど、情報に信ぴょう性が無さそうだ。バカだ。

というか、 「マジ先輩ちょっと聞いてくださいよ!空前絶後っすよ!!!ホントハンパネェ位ゲキマブで激アツな女の子見つけたんスよ!大勝利っすよ!マジ射精卍!!・・・。」の76文字も使って、かわいい女の子が居た。という内容しかないのビックリするわ。お前はアマ〇ンの段ボール箱か。

・・・。

「チョリーッス!ちょっと今の話マジシリアス?マイメンもうちょい詳しくおせーてプリーズ☆!」

僕にもその話教えてください。と言う旨を彼に伝えてみた。

43文字、全然かさ増し出来ていない。クソッ。警戒されるか?

 ・・・。お酒が入っていることも追い風になったのだろう、マイメンa.k.a.ジョーが、ノリノリで話しかけてきた。

 ちょっと聞き取りにくい部分があるので、ここからは翻訳して皆さんに概要を説明すると

とても麗しい女性を東の酒場で見かけたが、周りには彼女の虜になった男や女がうじゃうじゃしてる。普通であれば諦めて、別の女性を探したいが、彼女はマジオンリーワンであり、彼女を愛する気持ちが抑えきれなくなってきた、一目見るだけで幸せであり、それが僕の生きる道。好きな事で生きていく。との事であった。

 「ジョー、それって、具体的にはどのタイミングからその子に惹かれたの?」

 「卍(彼女の後姿を見たときは、絶世の美女だ、と言う雰囲気も【何も】感じなかったが、正面から見た瞬間、彼女のその非常に美しい目を見たときに、運命《ディスティニー》を感じました)」

 「ありがとう」

  ジョーの話で、秘書さんに概要を聞いたときに、気になった点について、確認が出来た。

 まず気になったのが、独占的な愛を今のところ感じていない、と言うことだ。勿論、時間の経過により、感情がさらに昂る事も想像できるが、今のところそれがない。恋愛感情的に、結構な疾走感のスタートダッシュを皆が切っているのに、今のところ独占欲を刺激された、殺人などの物騒な話を聞いていない。あの秘書さんの情報網に入っていないなら、現時点では、多分そう言うのは、無い。

 なんというか、恋愛なんだけど、普通の恋とかよりもっとスケールのデカイ愛を感じるな。

 結構有用な情報としては、顔とか体の前面を直接見なければ平気っぽい、と言うことだろうか。声とかではなさそうだ。秘書さんとかそんなに声が聞こえる様な距離まで不用意に対象に近づかないだろうし。

 彼女の顔や、身体の前面に、何らかの宝物がありそうだ。そんな気がする。

 非常に顔を見てみたい気持ちを抑えて、対策を考える事にした。

 直接会うのはまずい気がする。好奇心を抑えきれない自信があるし、魅了される条件が、僕の思っているものと異なる場合、僕も骨抜きにされてしまう。どんな宝物を使っているのか解るまでは、距離を取った方が良いだろうなあ。

 この事態を、王に報告して、弓等で彼女を遠距離攻撃で倒しちゃう事も考えた。自分以外の人間が、この問題に気付いている方が、もし魅了されてしまった時に何とかしてくれるかもしれない。が、まず王に報告するのは嫌だ。秘書さんが、内密にヤって欲しい感を出していたし。

そして、遠距離攻撃をしたとして、取り巻きが、ボディーガードみたいな感じになってたら、巻き込んでしまうし、それに彼女が倒れたり、死んじゃったりしても、この力からみんなが解放されるかどうかも解らない。というか彼女を神とあがめる宗教や組織が出来ちゃいそうで嫌だなあ。だってうじゃうじゃ彼女のファンが居るんでしょ?怖い。

と思った時に、恋愛のスケールがデカいと思った理由に気付く、皆が無償の愛情を彼女に感じているっぽいな。見返りを求めていない気がするし、独占もしてない。神様とか、人間より高位の物に対しての感情に近い気もする。

 そうなると、そこまで有害とも言えない・・・気もする、が、みんなが彼女に対してだけモチベーションを割くようになっても、この国や町が回っていかないし、拡散力とかも未知数だ、何より失礼な例えかもしれないが、国を動かす歯車が、自ら喜んで止まっているのが怖い。自分の意思で止まっているので、上に歯車が止まっているという問題を申告しないし、まずそれを問題だとも思わないせいで、対策を取る人間が居なくていつの間にか国が機能しなくなっていそうだ。

 とにかく、彼女が入手したであろう宝物が何かを割り出したい。

 僕は一端宝物庫へ戻ることにした。